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7組 〜休み時間                           フミキと梓、なんてことない日常のヒトコマ。









「あ、ここ――」
「ん?なになに」

つい独り言をもらすと水谷が体ごと振り向いてのぞきこむ。
その後ろにはチャイムとともにソッコーで机につっぷしたままの阿部の背中が見える。
机の上に広げた雑誌は選抜予想校を細かく分析した特集号。

守りの堅さに打撃の層の厚さが加わったと見開きを飾るチームには
中学時代のチームメイトがいる。

「あー、ここスゴイらしいね」
「おー」
「去年ぐらいから急に強くなったんじゃなかったっけ」
「だな」
「やっぱ監督かな」
「まあなぁ。監督追っかけてつえー選手も入ったみたいだし・・・」

いくつか載っている写真に見覚えのある顔はないけれど。
それでも、同じ地区の高校でおんなじように野球してるヤツらが
こんな風に記事になってるのを見るとなにか不思議な感じがする。

特別なような、身近なような。
ビミョウな距離感と親近感に、少なくない対抗意識。

「なあ花井、オレら載ったらどーする?埼玉に新星現る!"みたいな」
「ありえねー」
「えー、わかんねーじゃん。そん時でっかく載りそうなのはミハシと田島と花井かな。
オレはこの辺でポーズ決めとこっと」

へらりと笑いながら誌面を指差す顔は本気なんだか冗談なんだか。

「チームワークが自慢です。尊敬してるのは家族と監督。
一日一日を大切に目標もってがんばります」
「ぶ、本気で取材されるつもりかよ」

真面目な顔でインタビューに答える振りをする姿に思わずふきだすと

「だってさ、わりと行けそーな気がしねえ?」


―――甲子園


とは言わなかったけれど。

くるりと目尻を下げる水谷の顔を見て

(あ、コイツけっこー本気だ)

と思う。

しょっちゅう落ち込んだりすねたりするクセになんだかんだでマイペース。
ずっと野球やってんのが不思議なくらいのゆるい雰囲気で
でも、ほんとに野球好きみてーなんだよな。

ふと見ると、田島に打ち方を教わってたりする。
へらへらしてたかと思うと球にくらいついてく姿は誰より真剣だったり。
そういえば、あれからフライ落としてねーな・・・

そんなことを考えてると、急にミゾオチのあたりががうずうずと落ち着かなくなって

(負けてらんねぇー)

と、居てもたっても居られない気分になってくる。

「じゃー、3年までにここに載るか」
「お、いいねキャプテン」

顔つき合わせて、半分冗談で笑いながらすぐ先の未来を思った。

やることが山積みで、課題も山積みで、毎日どれだけ練習しても
どんだけ時間があっても足んねぇ気がする。

でも、それがすごく楽しい。

野球すんのがこんなにおもしろいなんて、知ってたけど、忘れてた。

「あー、早く部活になんねーかなー」

背伸びしながらつぶやく水谷につられて窓の外を見れば
そこにはきれいな水色が広がっていて

「だな」

気持ちはもう、踏みなれたグラウンドの土の上だった。








なんてことない光景に激しくときめきます。そんな日常萌え・・・
2006.7.28


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