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きたかぜとたいよう
                        阿部さんお誕生日祝い。じれったいほど乙女な阿部と三橋。







冬はわりと好きな方だと思う。

寒くてやだって言ってるのを周りではよく聞くけど、外に出て冷たい空気に触れた瞬間
体が ぎゅっ、と引き締まる感じがけっこう気持ちいい。

向かい風ん中思いっきり自転車をこぐと、体がぽかぽかして顔と手だけがジンジン冷たくて
それもいい感じだと思うんだ。

「あ、べくん 待って」

今にも消えそうな声に振り向くと必死な顔で自転車こいでるミハシが見えた。

「あ、わり」

つい、いつもの調子でペダルをこいでいたことに気がついて
キキキ、と力いっぱいブレーキを握ってからミハシを待つ。

「あべくん 早い、ねっ」

すぐにキッ、と音をたてて追いついてはふはふ言ってるミハシのほっぺたも、鼻の頭も真っ赤で
顔半分がマフラーに埋もれてるのが子供みたいに見える。

「…鼻水、たれてんぞ」

「えっ、わ」

あわてて ずび、と鼻をすするミハシにポケットにあったティッシュを袋ごと差し出すと
手袋のまま、わたわたと中身を取り出そうとするからツルツルと手がすべってうまくいかない。

「あわてなくていーから、手袋のけな」

「う、 ごめ・・・」

んなことでイチイチあやまんな、という言葉に「うぅ」とうなって
申し訳なさそうにはずした手袋を受け取り(奪い取り?)
チン、と鼻をかむのをじっ、と横で見守るのだっていつものことでもうすっかり慣れてしまった。
周りから、よく「過保護だ」と言われるのはこういうことだろうか・・・でも、

(フツーだよな)

「あ、ありがとっ 」

まだ、ずびずび言いつつ鼻の頭まで真っ赤にしたミハシから「おぅ」とティッシュを受け取り
かわりに手袋を渡そうとして
ふと、その薄っぺらい感触に気づく。

「これ、寒くねぇ?」

「んん? さむくない よ」

鮮やかな青をした毛糸の手袋は、ごく普通に編まれたモノで風もろくに防げていないような気がする。

(絶対寒いと思うけど・・・)

キョトンと見返してくるミハシはあんまり自分の体にかまわないタイプだ。

阿部は自分のしている手袋をはずして差し出されたミハシの手に ぽん、と乗せた。

「ぇ」

「それ使え。登山用のだからあったけぇよ」

今度ちゃんとしたの買えよ、と言うとミハシは阿部と手袋を交互に見比べて

「で も、あべくん も さむい・・・」

と、情けなさそうな眉をますます下げて言うからついイライラとして

「いーから、お前の手のが大事なんだよっ」

さっさとしろって、と手袋を乗せたミハシの手ごとぐい、と胸に押し付ける。

ミハシはまだ目をウロウロとさせて迷っていたが阿部の「早くしろ」と言う視線に観念したのか
ぎゅ、と手袋をにぎりしめた後うつむいて、ますますマフラーに埋もれながら

「あ、ありがと・・・」

とつぶやき、ごそごそと手袋をつけ始めた。

はふ、と広がる白い息に、ほっぺたが赤い。と、ふいに「あ」と、顔をあげて

「あべくんの が 残ってる」

手を阿部の方に向けてにぱ、と笑う。

「これ、すごく、あったかい ね」

ありがとぅ、と白い息を吐き おぉ、としきりに感心して両手をぐーぱーさせる。

ミハシの上気したほっぺたがほわほわと赤い。

気がつくと阿部の胸のあたりもほわほわとあたたくなっている。

(なん だ、この感じ)

ミハシはひとしきり感心した後、何か言いたそうにモジモジと阿部を見る。

「言いたいことあんなら、言えっつってんだろ」

「う、うん。」

うながされてコクコクとうなずくと

「あの、ね。手、ぶくろ うれしんだ けど オレ、俺には アベくんの 手 のが・・・だいじ・・・」

最後の方は消えそうになりながらも阿部の目を見て一生懸命に言う。

はふはふと吐く息がまわりにほわほわと白く広がって、阿部はなぜ自分の顔が かぁ、と熱いのか
胸に じん、と広がるものがなんなのかよくわからなかった。

(ンだよ、これ・・・)

と、チリン と横を通り過ぎた自転車のベルに は、と意識をはじかれる。

気を取り直して

「俺はこれするからいーよ」

握ったままだったミハシの手袋をさっさとはめ

「行くぞ」とうながすと
「わ、わ」と慌てるミハシにかまわずこぎ出した。

走りだしていきなり向かい風にびゅん、と顔を叩かれて思わずしかめっつらになるけど
熱い顔に冷たい空気が気持ちいい。

ほっぺたが かっか、するのもハンドルを握る両手がほんのりあったかいのも
みぞおちの辺がやたらとほかほかするのもきっと自転車をこいでるせいで

阿部は初めて感じるほこほことしたものを胸に、ふと
寒いから、その分だけ余計にあったかいのかもしれない、と思った。

振り向くと、冷たい空気の中あせあせと後ろをついてくるミハシの髪の毛が
そこだけお日様みたいに明るくて
ふわふわとあったかそうに揺れる。

阿部は、自然と頬がゆるむのをごまかすようにペダルを踏む足にぐいぐいと力をこめた。









ミハシおいてけぼり・・・!
いちおう阿部さんお誕生日祝いでした。

おめでとう!阿部。
特別にあったかい一日になりますように



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