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本日はバレンタインデーA                     阿部さんはオカンだよね・・・という視線の阿部的VD

 

 

 





どっちかっつーと「いくつ」もらったかより「誰に」もらったか、が重要じゃねーか?

阿部は、一人楽しげな水谷の背中を見ながらぼんやりと考えていた。

(つっても、特にもらいてーヤツもいねぇけど・・・)

と思ったところでぽよんと浮かぶ キョドキョドした顔に「こ、これっ・・・」と言わせてみて
ぶっ、と吹き出す。


(バカかオレは)

「なになに?なんかいいこと?」

笑い声を聞きつけた水谷が振り返る。

「なんもねーよ」

(そういや、アイツも誰かにもらってんのかな)

チョコとか、すっげぇ喜びそうだよな と想像してそれはちょっと気になるな、と思った。




* * *




「えっ、ミハシもう食べちゃったの?」

グラウンドについて着替えていると後ろから水谷の驚く声が聞こえた。

「休み時間に食ってたな」

「うん、うれしそーにな」

本人より先に泉と田島がうなずく。

まあ、らしいっちゃらしい。ミハシの食い意地はメジャー級だ。
あの細い体のどこに入んだ?ってくらいよく食べる。
当のミハシは驚かれたことに驚いてるのか

「えっと、お、お昼たんなくて お腹 すいた から・・・」

せわしなくパチパチと瞬きをしながら懸命に説明をしている。
続く水谷の「んでさ、本命はもらった?」という言葉には

「なななな、ないないないない」

慌ててブンブン頭を振り(いちいち忙しーヤツだ)首もげるぞー、と どっと笑いが起きた。

「オレも一緒v」

「え、えへ」

変なところで意気投合し、手を取り合う(というか水谷が握ってんだけど) 二人。

もし、本命もらったら、ミハシはどーすんだ?

女から告られて驚くミハシ・・・の、その先を想像してみるが、ひたすらキョドキョドして
今にも逃げ出しそうに汗をかく姿が思い浮かぶばかりでいっこうに話が前に進まない。

(女連れのミハシって、全然想像つかねぇな・・・まあ、どーでもいーけど)

それよりも今は地区大会の準備とその前にある学年末テスト、だ。

(アイツら全然ベンキョーしてねぇだろうな)

テスト期間中、ミハシと田島にかかりっきりになることを思うとどっと疲れがでる気がする。

(ミハシには今から単語覚えさせよう田島は・・・花井と西広に任せとけばいいか)

一人頭の中であれこれと段取りをするうちにそろそろ行くか、とみんながバラバラと動き始めたころ
しまおうとしたバックからカサリと紙の音がした。

(あ、そういや・・・)

「ミハシ」


「んん?」

呼ばれて ててっ、と寄ってくるミハシに

「手、出しな」

と言うと、素直に はい、と手の平を差し出すこの光景は一時期「お手」と呼ばれ
ひそかに驚かれたりもしたけれど今ではもうすっかり日常の風景となっている。

阿部は出された手を掴みくるっと返した手のひらに ポン、と包みを乗せた。

「へ?」

「やるよ」

「う?」

「チョコ、後で食えよな」

一瞬。

どよっ、と どよめいた室内の空気に阿部は気づかない。

「え  い、いの?」

「お前に買ったからな」

(((えぇっ、  か、買ったの・・・???)))

さらにざわめく無言の動揺にも、もちろん気づかない。
きっと、気にするつもりすらないだろう。

「うぁ、あ、ありが と・・・っ」

チョコをぎゅーと握りしめるミハシに

「溶けっぞ」

しまっとけ、とすかさず世話を焼く。

「う、うん」

コクコクとうなずくミハシとそれを見守る阿部、 を見ていた全員は

(((阿部、それ、どういう意味・・・・)))

と心の中で問いかけたが怖かったので面とむかっては聞く者はいなかった。

「え、なんで阿部があげてんの?」

いや、いた。田島だ。
ミハシの肩ごしに、あっさりとラッピングされた包みをのぞきこむ。

(((ナイス、突っ込み!)))

ベンチ付近でかたまる巣山、の後ろで思わずそのシャツを握ってしまった西広。
ミハシのそばでドキドキしながら様子を見守る沖や頼むぞ阿部〜』とひそかな念を送る花井
何か言うべきだろうか?とオロオロしている栄口に肝心の場面を見逃したのか

「んん?なんかあった?」

とキョロキョロしている水谷

と、その肩をぽんとたたき「あとで教えてやっから」と言ったのは泉だ。

とにかく、その場で固まり息を呑むみんなの心はひとつにまとまっていた(除く水谷)

(((どー答えんの??  聞きたいけど、ちょっと怖・・・)))

阿部は「何でんなこと聞くんだ?」と言いたげだったが田島の純粋に「?」を浮かべた目に じっ、と見つめられ
しぶしぶといった感じで口を開く。

「ちょっと前、コンビニ寄ったら山積みで」

「うんうん」

「ミハシが喜びそーだと思って買った」

そんだけ、と あくまで淡々とした調子の言葉にコクコクとうなづき「オレ うれしい」と必死に伝えるミハシに見つめられ
なぜか「うっ」と言葉に詰まるビミョーな表情の阿部の頬が、なんとなく染まって見えるのは気のせーだ と信じたい。

(そこで照れんならすんなっつーの!)

見てるこっちが恥ずかしくなんだろ、と心の中で叫んだのはつられて かぁ、と赤くなってしまった花井の突っ込み。

「おぉ」

田島は納得、という顔で ぽん、と手を打ち「さすがバッテリーだな」とニカっと笑う。

これは、微笑ましいというべきだろうか。

いや、なんか・・・なんだか違うような・・・

田島は周囲の戸惑う顔を気にもとめず

「んじゃオレも花井と沖にあげよ」

と真顔で言ってから早速しゃがみこみカバンの中の(もらいものの)チョコをさぐり始めたので

「いいっ!いいからっ!」

「気持ちだけで充分っ」

「そお?」

慌てて止められ沖と花井を寒―くさせていた。

ちなみにミハシは


「あ りがと田島くん」

「いつでも食えよ!」

受け取っていた。

にへっと笑いうあう二人。

それは微笑ましいと言えなくもない。

「・・・さっ、いこーぜっ!練習遅れっぞ!」

とりあえずその場の空気を切り替えたのはさすがの主将。

さっさとしろ、と固まるみんなのケツをたたいてその場はつつがなく(?)流れていった。




* * *




「なんか、阿部の気持ちわかるかもしんない・・・」

バッティング練習のセッティング中、栄口がぽろっとつぶやく。

「ん?」

近くにいた泉が栄口を見ると

「うちおとーといんじゃん」

「うん」

「弟がうれしそーにすると
ついイロイロしてあげたくなっちゃうんだよね。
阿部って、そんな感じなのかもなぁ、って」

説明する栄口に、泉が あぁ、とうなずく。

「そっか、栄口も阿部も弟いんだっけ」

「うん。憎たらしいけど、やっぱかわいんだよね」


「うーーん、オレは兄貴にそんな風にしてもらった覚えねーけど・・・
自分に下のキョーダイいたらそうかもなぁ」

ミハシってなんか構いたくなるよな、とふたりの意見が合う。

それからふと泉が思いついたのは

「でも、どっちかっつーと阿部の行動って兄貴って言うよりさ・・・」

「「――オカンみたいだよなっ」」

二人で見事にハモリ顔を見合わせはじけるように笑う。

常にミハシのこと見てるしいっつも怒っててさぁ口うるせーわりに、こまごま世話焼いてるしね

いらねーのにチョコくれるとこなんかもなーまさに「オカン」だよなぁ。

うちの捕手は世話好きのオカン。

   ちなみにミハシ専用  (※や、オレらはいいから。。。 by花井・沖)





* * *





「はよっ、オカン」

「よーす、オカン」

「はぁ?」

翌日から阿部が栄口と泉にオカンと呼ばれるようになったとか、ならなかったとか。

それがいつの間にか部全体に広まったとか広まらなかったとか。

西浦っ子のみぞ知る。







すみません。悪フザケです。



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