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本日はバレンタインデー     
                     フミキ視線の7組VD。





「あの、花井くん いますか?」
「花井―、呼んでるぞー」

「おー」

教室の入り口付近から、今日何度目かの呼び声に
話の途中でわりぃ、とバツが悪そうに手を上げて花井が席を立つ。

さっきからドアの向こうでチラチラこっちを見てた二人組みの女子たちは
やはり花井が目当てだったか。。。

こういう日になるとあらためて気づくけど花井ってモテるんだよね。

つーかさ。

顔よくて背も高くて成績もまあまあで運動神経よくてキャプテンで
おまけに性格までいい、なんてありえないパーフェクトぶりじゃねぇ?
(いやホントはけっこーとぼけたとこもあんだけどさ)

オレが女でも、やっぱ騒ぐよなぁ・・・


女の子の気持ちわかる、うんうん、と頷きつつ
机にひじをついて見るとはなしに眺めてると
ドアの向こうで一生懸命なんか言ってる女の子の姿。

こっちに背中むけてる花井はどんな顔してるのか見えないけど
あいつマジメだから、イチイチちゃんと答えてんだろうな。

うーむ、モテる男はつらいね。

・・・なんて余裕かましてるオレだって

それほど期待してるわけじゃないのになんとなーくソワソワしてしまうほど

『2月14日の放課後』 

と言えば
女子的にも男子的にも勝負時、だよねぇ。。。

まぁ、オレもチョコならけっこうもらったんだけど。
でもさ・・・

「あ、水谷、チョコどーぞv」

通りがかったクラスの女子がかわいくラッピングされた包みを
はい、と 渡してくれる。

色とりどりのリボンで飾られた中身はココア色したお菓子。

甘いものは好きだからついニヤけて へらっと笑ってしまう、んだけど

「ありがとうー」
「どういたしましてー」

部活がんばってねv と ひらひら手をふって去る笑顔は
あくまでカラッと明るくて笑って手を振り返した後、
なんだか はぁ・・・とため息がでる。


オレの場合、こういうノリなんだよなぁ。。。

もちろん、もらえるのはうれしい。
うれしんだけど・・・なんかこう、さみしいっつーかむなしいっつーか・・・

もっと真剣にオレを呼ぶ声が聞きたいんだよねぇぇぇ

机につっぷして一人ジタジタしてると

「水谷、先いくぞ」

頭上からブアイソな声が降ってきた。

肩にバックをかついだ阿部は教室中に充満しているこの浮ついた空気にも
我関せず、って顔でさっさと背中を向けて部室へ向かう。


阿部ってこういう時とってもクールよね。。。

はぁ、とため息をつき、すれ違いざま花井に
目だけで「先にいく」と合図して部室に向かってると

「あ、阿部くん」

校舎を出たところで阿部が女の子に声をかけられてるのを目撃してしまった。

あ、やべ。

つられてオレも立ち止まっちゃった。


「はい?」

思い切り怪訝そうな阿部の声。

ここから見てても女の子がびびってるのがわかる。


阿部に悪気はないのだろう。

でもさ

日頃からどっちかっつーと目つきの悪いそのタレ目で
じっ、とか見られると

けっこう怖いんだよね・・・っ

「で、用は?」とでも言いたげな愛想のカケラもない阿部の顔

(オレだったら泣いてる)


に、びびる女子は それでも果敢に包みを差し出す。

「あの、これ、受け取って・・・もらえます、か」

うわぁ、なにこれ!
このベタなシチュエーション!

てか、まさにこれ、オレが求めてたシーンなんだけど。

花井だけじゃなく阿部もかよ・・・
あ、だめだ、なんかビミョーにへこんできた。


「・・・悪ぃけど、もらえねぇし」

悪いとかいいつつも、きっぱりと迷いのない阿部の声。

え? 拒否? しかも即答?

うわ、女の子固まってる。

宙に浮いたままのチョコらしき
華やかに彩られた包み(というか彼女の気持ち)


・・・そして落ちる沈黙。

なんて、勝手に心の中で解説いれてるうちに
徐々にイライラとしてきた阿部の様子と
(早く部活に行きたいんだろう)

それを少し離れたとこで見てるだけで嫌な汗をかくオレ。
(ていうか立ち見はヤバイか・・・?)

女の子困ってんじゃん。
阿部、もうちょっと何か言ってあげてもいいんじゃ・・・

「あのさ」

おっ

「用済んだら、行ってもいい?

いやそうじゃなく・・・

さらにびびる女子は慌ててコクコクとうなずく。

だから、阿部に 悪気は 全くないんだろうけど
その目はマジで怖いんだって・・・!

「す、すみませんでした」
「いや、こっちこそ」

こっちこそ、といいつつも全く悪びれてない阿部は
くるりと背中を向けてさっさとグラウンドに向かう。

その後姿を見送ってからヨレヨレとその場を後にした女子に

オレは激しく同情し、そして尊敬した。

阿部に立ち向かうなんて、なんてツワモノなんだ。。。

やっと緊張の場面から開放されて、ダッシュで阿部に追いつく。

「なぁ、阿部って女の子に興味ないの?」
「んなわけねぇだろ」
「じゃ、なんで冷たくすんの」

ち、見てたのか、という阿部の視線がギロッと突き刺さる。
ま、負けないもん。


「もらいっぱなしってワケにいかねーし、色々メンドくせーじゃん」
「え・・・お返しってこと?」
「おー、あと知らねぇ女からとか、なんか気持ちわりーだろ」

えーと、そもそもバレンタインデーとは、
日ごろ話せないような相手にも勇気を出して告白できる日であって
そこ言っちゃ身もフタもないんじゃ・・・


「大体さ」

なんで話したこともねぇヤツに物あげようとすんのかな、女ってわかんねー

と、真面目な顔で首をかしげる阿部。

物、っていうか・・・「告白」だと思うんだけど。。。

お返ししなきゃとか、変なとこ律儀だし。


そこへん阿部はビミョーにズレてる・・・と思う。

オレは我慢できずに ぶは、と吹き出した。

「なに笑ってんだよ」
「いや、お前いいヤツだよ」

オレたちには野球があればいいよなっ、と肩を組むと
あからさまに嫌そーな顔でオレを見る。

ほんと、おもしれぇヤツだな、阿部って。


それから、ふと

「な、野球部のみんな、どんぐらい本命もらったんだろーな?」
「どーでもいいじゃん」
「えー気になんない?」
「全然。つかお前ヒマだな」
「ヒマとかじゃなくてさぁ
これはなんていうか・・・そう、男のロマン?」

野球があればいんじゃねーの?

と笑って肩をすくめる阿部は余裕でかっこいーけど

オレはそこまで達観できないからやっぱ気になる。

だって今日はバレンタインデー

ごくフツーの男としては


『誰かこっそりオレのこと好きだったりして・・・』 

なんて夢見ちゃうじゃん?

これってやっぱり ロマンだよ、ね!

「あとでみんなに聞いてみよ♪」


あきれる阿部の目線をうけつつもなんだかわくわくしてきたオレの足取りは
つい軽くなってしまうのだった。









フミキはほんとはモテると思います。「つきあって!」っていいやすそう(笑)
阿部はいつだってうまくかけません・・・



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